「元祖・上海」の地でポケモンたちがお出迎え【探訪「松江INCITY」】
「≧X世代」にもおすすめ!?
ショッピングモールは居心地が悪い場所だと感じる年配男性は少なくないだろう。筆者もそんな種族の1人で、さくっとスマホで買い物が済ませられるならそれに越したことはない。日本にいるときも、本屋とコンビニを除けば、店舗に足を運ぶのはおっくうなことでしかない。
いわば「“厨房”に入らずとも“書房”に入るのが男児の本懐(本買い?)」をモットーにしていたわけだが、そんな「X世代」(1965-1980年生まれ)より上の年代しか通じないジョークはさておき、「松江印象城」(SONGJIANG IN CITY )に先日足を運んできた。11月21日に開業し、SNSで話題沸騰中の大型ショッピングモールである。
「松江印象城」の開業で周囲の交通量も増えた
まだプロモーション期間だったこともあり、週末の夜は入り口からして長蛇の列だった。さすがに気力が失せてしまったので、日を改めウィークデーに再訪してみたのだが、思いがけず満足度が高いスポットというのが筆者の感想だ。気の利いた流通トレンド解説が担えるだけの力量は当方には備わっていないが、現場の雰囲気を簡単な散策レポートを通してお伝えすることにしよう。
館内至るところにポケモン
「松江印象城」は、上海市中心部から南西方向の郊外、松江区広富林路沿いにある。新石器時代から明代までの遺跡が集積する「広富林古文化遺跡」にほど近く、「元祖・上海」「上海発祥の地」(上海之根)と呼ばれる地域だ。公共交通機関を使うなら、地下鉄9号線の松江大学城駅から有軌電車2号線を利用する。外圏(※)の電車に乗車し、2つ目の駅「広富林路站(東華大学站)」で下車すれば徒歩数分でモールへアクセスできる。
鎮座する巨大ピカチュウの高さは10mに及ぶ
松江印象城はかくも特別なエリアに開業したわけだが、早くもランドマークとして存在感を示しているのは、なんと言ってもピカチュウ像の貢献が大きい。高く手を挙げて鎮座する姿は愛らしく、高さ10mにも及ぶ。インパクトという点では、2021年春に開業した「ららぽーと・上海金橋」のガンダム(高さ18m)に何ら引けをは取らない。
そのほか、モール内はピカチュウのフィギュアやオブジェのオンパレードで、ポケモンファンならずとも引き込まれてしまう。至るところが記念撮影スポットであり、親子連れやカップルらが、入れ代わり立ち代わりスマートフォンを取り出しては、カメラのシャッターを切る光景が絶えず見られた。
建築面積は15万㎡強、圧巻の広さ
旧スタイルの百貨店であれば、天井が低く頭から押さえつけられるような圧迫感を受けたものだが、近頃のショッピングモールは全く違う。中央スペースを吹き抜け構造にした施設がスタンダードになっている。だが、中でも上海印象城の開放感はとりわけスペシャルなものに感じられる。屋外ガーデンも充実し、児童向けの滑り台やブランコといった設備のほか、スケートボードが楽しめるゾーンまである。
開放的な吹き抜け構造の館内
そもそも学園都市(松江大学城)である松江区は青少年の人口が多い。最近発表された中国統計年鑑では、中国の出生率が日本を下回るという衝撃的な事実が明らかになったが、松江印象城を取り巻く環境はそんな厳しい現実とは無関係といえそうだ。エレベーターやトイレ等の施設も含め、子どもやバリアフリーへの配慮が十分に感じられ、裾野が広い消費者層をターゲットに設定しているのが察せられる。
「上海のルーツ」をモチーフとしたと言われるオブジェ
「国潮」ブームはカフェチェーンでも
中国国産EVが存在感を増している
ピカチュウがトレードマークというからには、さぞかし館内でも日本のプレゼンスが高いのではないかと期待してしまうが、実際はさにあらず。ユニクロやSONY、任天堂といったブランドが気を吐いてはいるものの、「国潮」ブームよろしく、やはり幅を効かせているのは中国本土のブランドだ。
スマートフォン等のIT・電子機器、アパレル、スポーツ用品、さらには自動車でも「小鵬」「蔚来」「理想」などがショールームを構え、トレンディーな新製品を披露している。ティースタンドに脚光が集まっているかと思えば、ラッキングコーヒー(瑞幸珈琲)に続けとばかり、コーヒーのジャンルでも国産ブランドの興隆が目立ってきた。
コーヒーショップも国内ブランドが興隆
ブックカフェは読書人の救世主?
中国本土ブランドのコーヒーショップもなかなかオシャレだ。ちょっと入って一息(ひと仕事)したいと思わせる雰囲気を醸し出している。しかし、どこにも空席が見当たらないので入店を断念。引き続き、館内をうろついてようやくたどり着いたのが地下1階の西西弗書店(シシフォー、Sisyphe Bookstore)だ。
喧騒をシャットアウトした店内
「西西弗」は書籍や雑誌のほか、文具や小物などバラエティーに富んだ商品を取り揃えるブックカフェで、貴州省遵義市に1993年に開業、その後、貴州で多店舗展開に成功すると、瞬く間に全国へと駒を進めていった業界のパイオニアだ。
かつて上海ではショッピングモールや百貨店に書店を見かけるケースは珍しかった印象がある。紙媒体が斜陽産業と言われるなかで、むしろ“外地”から進出してきたブックカフェが存在感を示し、上海のライフスタイルに変革を起こしているのは画期的なことではないだろうか。
上海のショッピングモールはかつては書店と縁が薄かった
玉石混交?本場顔負け?和食が人気
地下1Fのフードコートには一見“国籍不明”のブランドも
最後にグルメ店舗についても触れておこう。面積2,000㎡を誇る地下1Fのフードコートのほか、上層フロアにも数々の飲食店が入居しているが、ブランド事情に詳しい人が散策したら、それこそツッコミどころ満載に映るかも知れない。欧州発の有名ベーカリーかと思ったら実は韓国ブランドだったり、日本グルメの看板が目についたので覗き込んだら“偽日本語”ばかりというケースも少なくない。
“和風”を標榜する焼き肉店の店内
それでも筆者が食事をした焼肉レストランの顧客対応はとても良かった。上海市郊外のショッピングモールで、おそらく中国人経営と思われる和食レストランが賑わいを見せ、日本人に違和感を感じさせないクォリティーの接客サービスを提供しているのは「驚異」というよりも「脅威」というべきではないだろうか。
和食が世界遺産に登録され、世界的ブームとなってすでに久しい。とはいえ、アフターコロナを見据え、日本が対中国インバウンドに再挑戦するにはハードルが高い。もはや中途半端な「おもてなし」戦略は到底通用しないだろうーーそんな思いを強くした。(文:耕雲)
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